ミュ障上司Aさんが会社をやめる
おそらく自主退職で
そのことを噂程度に聞いてから、それを裏付けるような光景をちょこちょこ目にするようになった
この仕事は、引き継ぎに半月を要しても決して十分ではない
6月いっぱいで去るという噂が事実だとすれば、引き継ぎの準備やその気配は、今から漏れ出しても不思議ではない

Aさんはある方面ではかなり仕事ができる人だと思う
機械的作業をやらせたら、速さと効率の良さではなかなか右に出るものは居ない
大学院卒で元プログラマーという経歴、趣味はゲームということからも、そういうシステマティックな作業に適性があるっぽい

それに、コミュ障とは言いつつも、仕事上の最低限のコミュニケーションはとっていたように思う
それは責任感と社会人としての常識のみからくるものではあるが、聞かなきゃいけないことを聞かないこともあったけど、聞くべきことを聞く光景もよく目にしていた
だから、咎められることはあっても、そのせいで仕事が破綻するほどの問題でもなかった

ただ、重要なのは、うちの業界は、経験と知識を身につけたあとは、ひたすらコミュニケーションの世界だということ
おれはまだ経験も知識もないから、その世界には入れていないけど、傍から見ていても、そのことはひしひしと感じられる
経験と知識は時間さえかければ誰でも身につけられる
その先にある、本当の実力の世界、そこでやっていける人は、頭がいい人でも作業が速い人でもない、コミュ力がある人、ということになる

そもそもコミュ力とは、Aさんにないものとはなにか
それは、愛想がよく、人との会話に臆さず、より多くの情報を手に入れられ、その上で間違いと不条理にはノーと言えること
一言で言うと、自分に有利なように状況を運ぶ、権謀術数力のようなもの

言葉にすると、たったこれだけのことだけど、たったこれだけのことがないだけで、ある方面では優秀であっても、Aさんのような立場になってしまう

社長はおそらくこのコミュ力こそが最重要だと、長い業界歴で確信している
だからこそ、Aさんの社会人としての頭打ち感に気づいていて、それをどうにかしようと、無理な量の仕事を親切さのカケラもないような引き継ぎ方で押し付けていた
押し付けられてわからないことだらけの状況に立たせたら、わからないことについて質問すること、周りに助けを乞うこと、納期を引き伸ばしてもらうよう交渉することの大切さに気付き、その中で、先にあげたAさんにないものを自覚させようとしたのではないか、
と傍から見て勘ぐってる

が、その意図を忖度できず、無茶で非情な仕事のさせられ方だけを背負ったAさんが、やめることを決意しても不思議ではない
もしかするとAさんも気づいてはいたかも知れない、でも、改善はできなかった

というストーリーを勝手に考えてみると、あらためて、権謀術数力って大事なんだなと思わされる
人と話すときの声色、表情づくりから、いかに自分の仕事をそれっぽい理由で他人に押し付けるかまで、この社会は権謀術数力が物を言う権謀術数力社会で、それがないとこのAさんのようになってしまうということを、この一件で学んだ気がする

目下の心配は、貴重な先生がひとりいなくなること
ストレス源がひとつなくなることでもあって、今週の、別の上司からもらってやった仕事は、本当にストレスフリーだった
でもストレスさえ我慢すれば、便利な教科書みたいな存在だったし、それがなくなることは少しつらい
一応主任ってこともあって色々押し付けられたし引き出せたし(責任とか残業とか)